『イリヤの空、UFOの夏』
いつものように何も起きない、ごくありふれた夏だと思っていた…。
夏休み最後の夜、浅羽直之はふとした出来心から学校のプールに忍び込んだ。
彼はそこで、手首に銀色の球体を埋め込んだ不思議な少女と出会う。
「伊里野加奈」…それが二人の出逢いだった。
新学期になると、伊里野は浅羽のクラスに転校してきた。
他人とのコミュニケーションを苦手にしているらしい伊里野だったが、浅羽には不思議と心を開いた。
二人は学校生活を通じて、次第に親密になってゆく。
しかし伊里野には得体の知れない一面があった。
頻繁に校内放送で呼び出されては姿を消し、様々な出来事に対して、時に自らを傷付けるような奇妙な反応を見せるのだ。
そして、どこからともなく現れては伊里野の窮地を救う謎の男・榎本の存在…。
伊里野の秘密は、ここ園原の軍事基地や、新聞部が解明を目指すUFO騒動と何らかの関係があるのだろうか?
やがて特殊戦闘機「ブラックマンタ」の存在を通じて、彼女の背負う過酷な運命が明らかになってゆく…。
今、短い夏の永遠の物語が始まる。
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第1話 第三種接近遭遇
夏休み最後の夜、浅羽直之は学校のプールに忍び込んだ。誰もいないプールで存分に泳ぐつもりだったのだ。しかし、そこには水着の少女がいた。名前は伊里野加奈。彼女の手首には、なぜか金属の球体が埋め込まれていた。浅羽が伊里野に泳ぎ方を教えていると、不意にサイレンが鳴り、“伊里野の兄貴みたいなもの”と名乗る男が現れる。有無を言わさずプールから立ち去るように言われた浅羽の耳に、奇妙な言葉が飛び込んでくる。「戦争は1947年から始まってた、みんな気付いてなかっただけ」
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第2話 ラブレター
園原電波新聞部に所属する浅羽は、部長の水前寺邦博から、転校してきた伊里野とデートするよう命じられた。伊里野と仲良くなり、新聞部に入部させるためである。水前寺の強引さに負け、浅羽は伊里野を映画に誘う。そして日曜日、デートは無事にスタートした…はずだった。浅羽と伊里野の後をつける、二組の男女がいたのである。一組は浅羽の妹の夕子と、デートをけしかけた張本人の水前寺。もう一組は、“イリヤの兄貴”を自称する榎本と、保健室の先生である椎名だった…。
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第3話 十八時四十七分三十二秒
園原中学校の学園祭“旭日祭”が近づいていた。伊里野も一新聞部員として浅羽に参加を促される。榎本は旭日祭がどんなものか知らない彼女に、フィナーレの“ファイアーストーム”では男女でフォークダンスを踊ることを話す。それ以来、伊里野は浅羽とフォークダンスを踊ることを楽しみにしていた。ところが旭日祭の当日、フィナーレが近付いても伊里野は姿を現さない。心配する浅羽に、伊里野から一本の電話が掛かってくる。旧園原演習場の六番山に一人で来て欲しいと言うのだが…。
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第4話 水前寺、応答せよ
園原基地の方角で突然の爆発が起き、さまざまな憶測が飛び交っていた。園原中学校では安全措置として、生徒は次の登校日まで自宅待機という措置がとられる。そんなある日、晶穂は新聞部の“おいしいお店紹介”という記事の取材に伊里野を誘う。浅羽との関係を疑う晶穂は、あの手この手で質問を浴びせるが、つっけんどんな答えが返ってくるばかり。伊里野が自分と同じものを注文して一心不乱に食べ始めるのを見た晶穂は、大食い対決を挑まれていると感じて…。
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第5話 最後の道
巨大な力からの逃走を図った浅羽と伊里野は、自分たちだけの秘密基地に隠れ、平穏な日々を過ごしていた。しかし、安息の日々も長くは続かなかった。伊里野に襲いかかった事件を境に、二人の気持ちはことあるごとにすれ違うようになってしまう。秘密基地を追われた浅羽は、疲労と焦燥感から心ない言葉を伊里野に投げつけてしまう。全てが思いもよらぬ方向へ進み、後悔し、戸惑う浅羽。そして辿り着いた親戚の祖母の家には…。
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第6話 イリヤの空、UFOの夏
浅羽を待ち受けていた榎本は、伊里野の秘密やこの国の現状についての真相を語る。現在のこの国は戦時下に置かれ、伊里野が戦闘機のパイロットとして敵国の兵士を殺していること。そして3日後に迫った最後の決戦に出撃できるパイロットは、もはや伊里野ひとりしか残されていないこと…。戦闘機の発着場に連れてこられた浅羽は、榎本から大きな決断を迫られる。浅羽と伊里野の短すぎる夏の物語が、今、終わりを告げようとしていた。