『一休さん』
小松天皇の皇子である千菊丸は、母と別れて安国寺の小僧、一休として修行の道に入り、毎朝日の出前に叩き起こされ冷たい水での拭き掃除に泣きべそをかき、暖かいお母さんの懐が恋しくても、夕焼けの空に「お母さん!」と呼んでみる以外にどうすることも出来なかった。
そんなある日一休さんは、和尚さんのお供で京の町へ出かけると、町の中へ入る橋のたもとで乞食の少年が役人に京の町の中にいる母親に会いに行きたいと必死に頼んでいた。
橋の札には「このはしをわたるべからず」と書いてある。
戦乱に家を焼かれ乞食になってしまった者を京の町へ入ることを禁止した札であった。
そこで一休さんは、役人が目をそらせた隙にその子と橋を堂々と渡る。
「はしを渡ってはいけないというから、はしっこではなく真中を渡ってきました」と。
幾度も頭を下げながら人ごみに消えるその子を見送りながら「あの子のお母さんってどんな人かな」と一休さんは思うのであった。
野次馬の賞賛の声も聞こえず、一休さんの胸の内は母恋しさでいっぱいであった。
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