『有頂天家族』
京都には人間と狸と天狗が住んでいる。
下鴨神社・糺(ただす)ノ森に暮らす下鴨家。
狸界の頭領であった父・総一郎は、ある日何の前触れもなく狸鍋にされたのだが、その経緯は今も謎に包まれていた。
残された四兄弟のなかでも偉大な父の「阿呆の血」を色濃く継いだ三男・矢三郎は「面白きことは良きことなり」をモットーに、生真面目だが土壇場に弱い長兄・矢一郎、蛙の姿で井戸にこもっている次兄・矢二郎、臆病ですぐに尻尾を出してしまう末弟・矢四郎、そしてタカラヅカ命の母に囲まれて暮らしていた。
隠居中の大天狗・赤玉先生の世話を焼いたり、神通力を得た人間の美女・弁天に振り回されたり、はたまた五山送り火の夜空で宿敵・夷川家と空中決戦を繰り広げる日々の果てに、突如下鴨家を襲う絶体絶命の危機!
父が鍋にされた真相が明らかになるなか、固い絆で結ばれた一家の運命はいかに!
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第1話 納涼床の女神
京都には人間と狸と天狗が暮らしている。狸の矢三郎が、師匠である大天狗の赤玉先生を訪ねると、今日もまた赤玉先生は不機嫌であった。矢三郎が女子高生の姿に化けてきたことが、気に障ったようだ。そんな矢三郎に赤玉先生が弁天宛の手紙を今日中に届けるようことづける。弁天とは赤玉先生の弟子にして先生の想い人で、人間だが天狗の神通力で空を飛ぶ美女である。赤玉先生の気持ちを知ってか知らずが町を遊び歩く弁天を探して、矢三郎は街へと繰り出す。
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第2話 母と雷神様
ビリヤードに興じるタカラヅカ風の美青年・黒服の王子。その正体は、下鴨家の母であった。母に頼まれた矢三郎は珍皇寺の井戸に、蛙となった兄・矢二郎を訪ねる。最近、矢二郎を長兄・矢一郞が訪ねてきたという。「俺はこの頃、兄さんがつくづく可哀想になるんだ」と語る矢二郎。雷雲が迫る中、矢三郎は、ライバル夷川家の偽電気ブラン工場で働く末弟の矢四郎のもとへ向かう。そのころ矢四郎は絶体絶命の危機に陥っていた。
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第3話 薬師坊の奥座敷
京の夏の風物詩、五山の送り火が近づいてきた。浮かれる人間どもに調子を合わせ、狸たちもまた夏の夜空でどんちゃん騒ぎをする。そのためには空飛ぶ納涼船が必要。下鴨家では、矢一郞がその手配に奔走していたが、口惜しくもその計画は頓挫。矢三郎は矢一郞から頭を下げられ、納涼船の手配を頼まれる。かくして矢三郎は、矢四郎とともに赤玉先生の元を訪ねるのだったが…。
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第4話 大文字納涼船合戦
矢三郎が弁天から借り受けた空飛ぶ奥座敷。空へと舞い上がった奥座敷で五山の送り火を楽しむ納涼会が始まった。上座に座る赤玉先生。亡き父、総一郎に倣って矢一郞は布袋の姿に化けている。そしていつも通りの矢三郎と、はしゃいで濡れ縁をうろうろする矢四郎。それを見守る母。そこに大型船に乗った夷川家がやってきた。夏の夜空に一触即発の緊張感が漂う。
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第5話 金曜倶楽部
七人の食通からなる「金曜倶楽部」。彼らは、忘年会に狸鍋を食べるが故に、狸の天敵であった。矢三郎たちの父、総一郎もまた、金曜倶楽部の鍋となったのである。そして弁天は、金曜倶楽部の一員であった。その弁天が、矢三郎を探している。五山の送り火の夜、弁天から借りた空飛ぶ奥座敷を壊してしまった矢三郎は金曜倶楽部で芸をしなくてはならなかったのだ。逃げ回っていた矢三郎だが、ついに弁天に見つかってしまう。
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第6話 紅葉狩り
金曜倶楽部を抜け出した弁天に連れられて、矢三郎と淀川教授は夜の屋上で紅葉狩りを楽しむ。酔って寝てしまった淀川教授を矢三郎に託し、弁天は消えてしまうが、やがて目を覚ました淀川教授は、「喰うということは愛するということだ。」という持論を矢三郎に説き始める。そして淀川教授は、矢三郎の父・総一郎が狸鍋になった金曜倶楽部の忘年会での不思議な出来事を矢三郎に語り始めるのだった。
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第7話 銭湯の掟
矢三郎が弁天から逃げ回っていた間、大の風呂嫌いである赤玉先生をなんとか風呂に連れ出そうとして失敗した矢四郎に泣きつかれた矢三郎は、いつもの口論の挙げ句、なんとか赤玉先生を銭湯に連れて行くことになる。駆り出された矢一郎を交えた一行を銭湯で待ち受けていたのは、偽右衛門選挙を前に暗躍する金閣と銀閣だった。
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第8話 父の発つ日
金閣と銀閣に告げられた事実を確かめるため、矢一郎と矢三郎は矢二郎のいる六道珍皇寺の井戸を訪れる。父・総一郎はなぜ狸鍋になったのか。なぜ矢二郎は蛙となって井戸に篭ることを選んだのか。矢二郎の思わぬ告白は、矢一郎と矢三郎に衝撃を与える。そして矢三郎は、総一郎の死について赤玉先生よりさらに新たな事実を告げられるのだった。
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第9話 夷川の娘・海星
長きにわたって対立してきた下鴨家と夷川家。狸界の頭領・偽右衛門だった下鴨総一郎の後継を巡り、下鴨家の長男・矢一郞と夷川家の当主・早雲は、今改めて偽右衛門選挙の場で衝突しようとしていた。雌雄を決する長老たちの御前会議に、赤玉先生の立ち会いをお願いしようとするが、赤玉先生は駄々をこねて出席を承諾しない。説得のため、矢三郎に白羽の矢が立つ。
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第10話 夷川早雲の暗躍
狸界の頭領・偽右衛門が決まる日がやってきた。奇しくも偽右衛門だった矢三郎たちの父・総一郎の命日であり、毎年狸鍋が振る舞われる金曜倶楽部の忘年会当日でもある。偉大な父の跡目を継ごうと奮闘する矢一郎と、策謀を巡らせる早雲のどちらが偽右衛門となるのか。祝勝会の準備を整え、朗報を待つ下鴨家に、突如暗雲が立ち込める。
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第11話 捲土重来
父・総一郎が狸鍋となった真相を知った矢三郎だったが、そのとき既に、張り巡らされた陰謀により矢一郎と母は囚われの身となっており、包囲網は矢三郎にも迫っていた。弁天のおかげでなんとか窮地を脱した矢三郎は、二人を救うために行動を始めるが、それは矢三郎をさらなる窮地へと追い込むことになってしまう。一方、金曜倶楽部では、着々と忘年会恒例の狸鍋の準備が進んでいた。どうなる下鴨家!
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第12話 偽叡山電車
矢四郎は、海星から家族の危機を知らされるが、為す術もない。土砂降りの雨の中、たった一人残された矢四郎の脳裏に響くのは、金閣の「あんなやつ、放っておけばいい。なんの役に立たないもの」という言葉。意を決して駆け出した矢四郎が向かったのは、蛙となった兄・矢二郎がいる六道珍皇寺。一方、金閣・銀閣の罠に陥った矢三郎は檻の中で尾羽打ち枯らしていた。絶体絶命の矢三郎に起死回生の策はあるか!
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第13話 有頂天家族
仙酔楼の座敷では金曜倶楽部による狸鍋の準備が整い、檻に入れられた狸が運ばれていく。一方、別の座敷では狸の頭領・偽右衛門を決める会議が開かれ、居並ぶ狸たちを前に罠を脱した矢一郞と早雲が正面から衝突していた。ふてぶてしい態度を崩さない早雲に、ついに矢一郎の堪忍袋の緒が切れる。狸と天狗と人間の三つ巴で繰り広げられる波乱万丈の物語、その結末やいかに!