『MEMORIES』
【Episode.1「彼女の想いで」】
2092年。ハインツ、ミゲル、イワノフ、青島の4人は、自前の宇宙船を使い、宇宙空間に浮遊する難破船、廃棄衛星といった「ゴミ」の回収、解体作業を請け負って金を稼ぐ独立業者だ。
ひと仕事終えた帰途、宇宙の墓場と呼ばれるサルガッソー宙域から送られてくる救難信号を受信、発信源に急行した彼らが遭遇したのは、巨大な薔薇の形をした旧型宇宙船だった、中に侵入したハインツとイワノフは、いきなり眼前に現れた壮麗なオペラ劇場に驚愕する。
ロボット以外に動くものの姿などない船内の各部屋には、21世紀初頭の天才ソプラノ歌手、エリザベス・フリーデル(エヴァ)の残した品々が数十年間、誰の手も触れぬまま放置されているだけだった。
なおも探索を続けるふたりは、やがて摩訶不思議なあやかしの世界に落ちこんでいく。
それは、不幸な運命をたどったエヴァの情念が作りだした「幸せな想いで」の幻想なのだ……。
【Episode.2「最臭兵器」】
冬の甲府盆地。西橋製薬の研究所員、田中信男は風邪薬だと錯覚して、ある新薬サンプルを服用してしまう。
実は、そのサンプルは、政府の依頼で極秘に進めていた細菌戦用兵器研究の産物であり、服用した人間の体から、その臭いをかいだ生物を一瞬にして意識不明にしてしまうガスを発生させる驚異の薬品だった。
仮眠をとった田中が目覚めた時、すでに彼の体から発生したガスは甲府盆地を覆いつくしており、研究所はおろか盆地内の人間、鳥、獣は仮死、植物はすべて、桜もひまわりもいっしょくたに花を咲かせていた。
自分が「歩くリーサル・ウエポン(最終兵器)」と化したことをまったく知らない田中は、東京の本社へ向かう。
自衛隊は、狙撃兵、戦車、ミサイル、戦闘機を総動員して田中を攻撃するが、ガスは機械をも狂わせてしまい、彼の前進を止められない。
ついに、彼を生け捕りにすべく米軍が最終兵器を投入するが……。
【Episode.3「大砲の街」】
少年が住んでいるのは、無数の大砲で重装備した移動都市だ。
市内各所に、超巨大な大砲を据えた砲台があり、少年の父親は17番砲台の装填手。
母親は砲弾製造工場で働いている。
「撃てや撃て力の限り街のため」などという標語がテレビから流れるこの街は他国と交戦中で、市民生活すべての中心は「大砲」である。
学校の授業も大砲のためにあり、少年が教わる数学のテーマは、いかに射撃精度を上げるかだったりする。
砲台は連日、轟音を街中に響きわたらせる。
少年の父親のような大勢の装填手たちが汗や煤にまみれて装填した砲弾を、着飾った砲撃手が儀式化された動作で遠く離れた敵に向けて発射するのだ。
こちらの砲撃が挙げた戦果は毎夜テレビで発表される。
そうした、いつもと変わらぬ1日を終えた少年は将来、重労働だが地位は低い装填手ではなく、花形職種の砲撃手になりたいと願いながら眠りにつくのだった……。